変身

變形記

III

グレゴールが一月以上も苦しんだこの重傷は――例のリンゴは、だれもそれをあえて取り除こうとしなかったので、眼に見える記念として肉のなかに残されたままになった――父親にさえ、グレゴールはその現在の悲しむべき、またいとわしい姿にもかかわらず、家族の一員であって、そんな彼を敵のように扱うべきではなく彼に対しては嫌悪をじっとのみこんで我慢すること、ただ我慢することだけが家族の義務の命じるところなのだ、ということを思い起こさせたらしかった。

ところで、たとい今グレゴールがその傷のために身体を動かすことがおそらく永久にできなくなってしまって、今のところは部屋のなかを横切ってはい歩くためにまるで年老いた傷病兵のようにとても長い時間がかかるといっても――高いところをはい廻るなどということはとても考えることができなかった――、自分の状態がこんなふうに悪化したかわりに、彼の考えによればつぎの点で十分につぐなわれるのだ。つまり、彼がつい一、二時間前にはいつでもじっと見守っていた居間のドアが開けられ、そのために彼は自分の部屋の暗がりのなかに横たわったまま、居間のほうからは姿が見えず、自分のほうからは明りをつけたテーブルのまわりに集っている家族全員を見たり、またいわば公認されて彼らの話を以前とはまったくちがったふうに聞いたりしてもよいということになったのだった。

格里高爾所受的重創使他有一個月不能行動——那個蘋 果還一直留在他的身上,沒人敢去取下來,彷彿這是一個公 開的紀念品似的——他的受傷好象使父親也想起了他是家庭 的一員,儘管他現在很不幸,外形使人看了噁心,但是也不 應該把他看成是敵人,相反,家庭的責任正需要大家把厭惡 的心情壓下去,而用耐心來對待,只能是耐心,別的都無濟 於事。

雖然他的創傷損害了,而且也許是永久的損害了他行動 的能力,目前,他從房間的一端爬到另一端也得花好多好多 分鐘,活像個老弱的病人——說到上牆在目前更是談也不用 談——可是,在他自己看來,他的受傷還是得到了足夠的補 償,因為每到晚上——他早在一兩個小時以前就一心一意等 待着這個時刻了,起坐室的門總是大大地打開,這樣他就可 以躺在自己房間的暗處,家裡人看不見他,他卻可以看到三 個人坐在點上燈的桌子旁邊,可以聽到他們的談話,這大概 是他們全都同意的。比起早先的偷聽,這可要強多了。

むろん、聞こえてくるのはもはや以前のようなにぎやかな会話ではなかった。グレゴールは以前は小さなホテルの部屋で、疲れきってしめっぽい寝具のなかに身体を投げなければならないときには、いつもいくらかの渇望をもってそうした会話のことを考えたものだった。ところが今では、たいていはひどく静かに行われるだけだ。父親は夕食のあとすぐに彼の安楽椅子のなかで眠りこんでしまう。母親と妹とはたがいにいましめ合って静かにしている。母親は明りの下にずっと身体をのり出して流行品を扱う洋品店のためのしゃれた下着類をぬっている。売場女店員の地位を得た妹は、晩には速記とフランス語との勉強をしている。おそらくあとになったらもっといい地位にありつくためなのだろう。ときどき父親が目をさます。そして、自分が眠っていたことを知らないかのように、「今晩もずいぶん長いこと裁縫をしているね!」といって、たちまちまた眠りこむ。すると、母親と妹とはたがいに疲れた微笑を交わす。

的確,他們的關係中缺少了先前那種活躍的氣氛。過去, 當他投宿在客棧狹小的寢室裡,疲憊不堪,要往潮滋滋的床 鋪上倒下去的時候,他總是以一種渴望的心情懷念這種氣氛 的。他們現在往往很沉默。晚飯吃完不久,父親就在扶手椅 裡打起瞌睡來;母親和妹妹就互相提醒誰都別說話;母親把 頭低低地俯在燈下,在給一家時裝店做精細的針線活;他妹 妹已經當了售貨員,為了將來找更好的工作,在利用晚上的 時間學習速記和法語。有時父親醒了過來,彷彿根本不知道 自己已經睡了一覺,還對母親說:“你今天幹了這麼多針線 活呀!”話才說完又睡着了,於是娘兒倆又交換一下疲倦的 笑容。

父親は一種の強情さで、家でも自分の小使の制服を脱ぐことを拒んでいた。そして、寝巻は役に立たずに衣裳かぎにぶら下がっているが、父親はまるでいつでも勤務の用意ができているかのように、また家でも上役の声を待ちかまえているかのように、すっかり制服を着たままで自分の席でうたた寝している。そのため、はじめから新しくはなかったこの制服は、母親と妹とがいくら手入れをしても清潔さを失ってしまった。グレゴールはしばしば一晩じゅう、いつも磨かれている金ボタンで光ってはいるが、いたるところにしみがあるこの制服をながめていた。そんな服を着たまま、この老人はひどく窮屈に、しかし安らかに眠っているのだった。

父親脾氣真執拗,連在家裡也一定要穿上那件制服,他 的睡衣一無用處地掛在鈎子上,他穿得整整齊齊,坐著坐著 就睡着了,好象隨時要去應差,即使在家裡也要對上司唯命 是從似的。這樣下來,雖則有母親和妹妹的悉心保護,他那 件本來就不是簇新的制服已經開始顯得臟了,格里高爾常常 整夜整夜地望着鈕扣老是擦得金光閃閃的外套上的一攤攤油 跡,老人就穿著這件外套極不舒服卻又是極安寧地坐在那裡 沉入了睡鄉。

時計が十時を打つやいなや、母親は低い声で父親を起こし、それからベッドにいくように説得しようと努める。というのは、ここでやるのはほんとうの眠りではなく、六時に勤めにいかなければならない父親にはほんとうの眠りがぜひとも必要なのだ。しかし、小使になってから彼に取りついてしまった強情さで、いつでももっと長くテーブルのそばにいるのだと言い張るのだが、そのくせきまって眠りこんでしまう。その上、大骨を折ってやっと父親に椅子とベッドとを交換させることができるのだった。すると母親と妹とがいくら短ないましめの言葉でせっついても、十五分ぐらいはゆっくりと頭を振り、眼をつぶったままで、立ち上がろうとしない。母親は父親の袖そでを引っ張り、なだめるような言葉を彼の耳にささやき、妹は勉強を捨てて母を助けようとするのだが、それも父親にはききめがない。彼はいよいよ深く椅子に沈みこんでいく。女たちが彼のわきの下に手を入れるとやっと、眼を開け、母親と妹とをこもごもながめて、いつでもいうのだ。 「これが一生さ。これがおれの晩年の安らぎさ」

そして、二人の女に支えられて、まるで自分の身体が自分自身にとって最大の重荷でもあるかのようにものものしい様子で立ち上がり、女たちにドアのところまでつれていってもらい、そこでもういいという合図をし、それからやっと今度は自分で歩いていく。一方、母親は針仕事の道具を、妹はペンを大急ぎで投げ出し、父親のあとを追っていき、さらに父親の世話をするのだ。

一等鐘敲十下,母親就設法用婉言款語把父親喚醒,勸 他上床去睡,因為坐著睡休息不好,可他最需要的就是休息, 因為六點鐘就得去上班。可是自從他在銀行裡當了雜役以來, 不知怎的得了犟脾氣,他總想在桌子旁邊再坐上一會兒,可 是又總是重新睡着,到後來得花九牛二虎之力才能把他從扶 手椅弄到床上去。不管格里高爾的母親和妹妹怎樣不斷用溫 和的話一個勁兒地催促他,他總要閉着眼睛,慢慢地搖頭, 搖上一刻鐘,就是不肯站起來。母親拉著他的袖管,對著他 的耳朵輕聲說些甜蜜的話,他妹妹也扔下了功課跑來幫助母 親。可是格里高爾的父親還是不上鈎。他一味往椅子深處退 去。直到兩個女人抓住他的胳肢窩把他拉了起來,他才睜開 眼睛,看看這個,又看看那個,而且總要說:“我過的是什 麼日子呀。這就算是我安寧、平靜的晚年了嗎。”於是就由 兩個人攙扶着掙扎站起來,好不費力,彷彿自己對自己都是 一個沉重的負擔,還要她們一直扶到門口,這才揮揮手叫她 們回去,獨自往前走,可是母親還是放下了針線活,妹妹也 放下筆,追上去再攙他一把。

この働きすぎて疲れきった家庭で、だれがどうしても必要やむをえないこと以上にグレゴールなんかに気を使うひまをもっているだろうか。家政はいよいよ切りつめられていった。女中ももうひまを出されていた。頭のまわりにぼさぼさの白髪をなびかせている骨ばった大女が、朝と晩とにやってきて、いちばんむずかしい仕事をやるようになった。ほかのことはすべて、母親がたくさんの針仕事のかたわら片づけていた。その上、以前には母親と妹とが遊びごとや祝いがあると有頂天になって身につけていたさまざまな家宝の装飾品も、晩にみんなが集って売値の相談をしているのをグレゴールが聞いたところによると、売られてしまった。だが、最大の嘆きはいつでも、現在の事情にとっては広すぎるこの住居を立ち退くことができないということであった。なぜなら、グレゴールをどうやって引っ越させたものか、考えつくことができないからだった。しかしグレゴールは、引越しを妨げているものはただ自分に対する顧慮だけではないのだ、ということをよく見抜いていた。というのは、彼のことなら、一つ二つ空気孔あなのついた適当な箱に入れてたやすく運ぶことができるはずだった。この家族の移転を主として妨げているのは、むしろ完全な絶望感であり、親威しんせきや知人の仲間のだれ一人として経験しなかったほどに自分たちが不幸に打ちのめされているという思いであった。

在這個操勞過度疲倦不堪的家庭裡,除了做絶對必需的 事情以外,誰還有時間替格里高爾操心呢?家計日益窘迫; 使女也給辭退了;一個篷着滿頭白髮高大瘦削的老媽子一早 一晚來替他們做些粗活;其它的一切家務事就落在格里高爾 母親的身上。此外,她還得做一大堆一大堆的針線活。連母 親和妹妹以往每逢參加晚會和喜慶日子總要驕傲地戴上的那 些首飾,也不得不變賣了,一天晚上,家裡人都在討論賣得 的價錢,格里高爾才發現了這件事。可是最使他們悲哀的就 是沒法從與目前的景況不相稱的住所裡遷出去,因為他們想 不出有什麼法子搬動格里高爾。可是格里高爾很明白,對他 的考慮並不是妨礙搬家的主要原因,因為他們滿可以把他裝 在一隻大小合適的盒子裡,只要留幾個通氣的孔眼就行了; 他們徹底絶望了,還相信他們是注定了要交上這種所有親友 都沒交過的厄運,這才是使他們沒有遷往他處的真正原因。

世間が貧しい人びとから要求しているものを、家族の者たちは極限までやりつくした。父親はつまらぬ銀行員たちに朝食をもっていってやるし、母親は見知らぬ人たちの下着のために身を犠牲にしているし、妹はお客たちの命令のままに売台のうしろであちこちかけ廻っている。しかし、家族の力はもう限度まできているのだ。そして、母親と妹とが、父親をベッドへつれていったあとでもどってきて、仕事の手を休めてたがいに身体をよせ合い、頬と頬とがふれんばかりに坐っているとき、また、今度は母親がグレゴールの部屋を指さして「グレーテ、ドアを閉めてちょうだい」というとき、そして二人の女が隣室でよせた頬の涙をまぜ合ったり、あるいはもう涙も出ないでテーブルをじっと見つめているあいだ、グレゴールのほうは、ふたたび暗闇のなかにいて、その背中の傷は今はじめて受けたもののように痛み始めるのだった。

世界上要求窮人的一切他們都已儘力做了:父親在銀行裡給 小職員賣早點,母親把自己的精力耗費在替陌生人縫內衣上, 妹妹聽顧客的命令在櫃檯後面急急地跑來跑去,超過這個界 限就是他們力所不及的了。把父親送上了床,母親和妹妹就 重新回進房間,他們總是放下手頭的工作,靠得緊緊地坐著, 臉挨着臉,接着母親指指格里高爾的房門說:“把這扇門關 上吧,葛蕾特。”於是他重新被關入黑暗中,而隔壁的兩個 女人就涕泗交流起來,或是眼眶乾枯地瞪着桌子;逢到這樣 的時候,格里高爾背上的創傷總要又一次地使他感到疼痛難 忍。

夜も昼もグレゴールはほとんど一睡もしないで過ごした。ときどき彼は、このつぎドアが開いたら家族のいっさいのことはまったく以前のようにまた自分の手に引き受けてやろう、と考えた。彼の頭のなかには、久しぶりにまた社長や支配人、店員たちや見習たち、ひどく頭の鈍い小使、別な店の二、三の友人たち、田舎いなかのあるホテルの客室づき女中、楽しいかりそめの思い出、彼がまじめに、しかしあまりにのんびり求婚したある帽子店のレジスター係の女の子、そんなものがつぎつぎに現われた。――そうしたすべてが見知らぬ人びとやもう忘れてしまった人びとのあいだにまぎれて現われてくる。しかし、彼と彼の家族とを助けてはくれないで、みんな近づきがたい人びとであり、彼らが姿を消すと、グレゴールはうれしく思うのだった。

不管是夜晚還是白天,格里高爾都几乎不睡覺。有一個 想法老是折磨他:下一次門再打開時他就要像過去那樣重新 挑起一家的擔子了;隔了這麼久以後,他腦子裡又出現了老 板、秘書主任、那些旅行推銷員和練習生的影子,他彷彿還 看見了那個其蠢無比的聽差、兩三個在別的公司裡做事的朋 友、一個鄉村客棧裡的侍女,這是個一閃即逝的甜蜜的回憶; 還有一個女帽店裡的出納,格里高爾慇勤地向她求過愛,但 是讓人家捷足先登了——他們都出現了,另外還有些陌生的 或他几乎已經忘卻的人,但是他們非但不幫他和他家庭的忙, 卻一個個都那麼冷冰冰,格里高爾看到他們從眼前消失,心 裡只有感到高興。

ところが、つぎに家族のことなんか心配する気分になれなくなる。ただ彼らの世話のいたらなさに対する怒りだけが彼の心をみたしてしまう。何が食べたいのかも全然考えられないにもかかわらず、少しも腹は空いていなくとも自分にふさわしいものをなんであろうと取るために、どうやったら台所へいくことができるか、などといろいろ計画を立ててみる。今はもう何をやったらグレゴールにかくべつ気に入るだろうかというようなことは考えもしないで、妹は朝と正午に店へ出かけていく前に、何かあり合せの食べものを大急ぎでグレゴールの部屋へ足で押しこむ。夕方には、その食べものがおそらくほんの少し味わわれたか、あるいは――そういう場合がいちばん多かったが――まったく手をつけてないか、ということにはおかまいなしで、箒で一掃きして部屋の外へ出してしまう。部屋の掃除は、今ではいつも妹が夕方にやるのだが、もうこれ以上早くはすませられないというほど粗末にやるのだ。汚れたすじが四方の壁に沿って引かれてあるし、そこかしこにはごみと汚れものとのかたまりが横たわっている始末だ。はじめのうちは、妹がやってくると、グレゴールはそうしたとくに汚れの目立つ片隅の場所に坐りこんで、そうした姿勢でいわば妹を非難してやろうとした。しかし、きっと何週間もそこにいてみたところで、妹があらためるということはないだろう。

另外,有的時候,他沒有心思為家庭擔憂 ,卻因為家人那樣忽視自己而積了一肚子的火,他自己也弄 不清楚到底愛吃什麼,卻打算闖進食物儲藏室去把本該屬於 他份內的食物叼走。他妹妹再也不考慮拿什麼他可能最愛吃 的東西來喂他了,只是在早晨和中午上班以前匆匆忙忙地用 腳把食物撥進來,手頭有什麼就給他吃什麼,到了晚上只是 用掃帚一下子再把東西掃出去,也不管他是嘗了幾口呢,還 是--這是最經常的情況--連動也沒有動。她現在總是在 晚上給他打掃房間,她的打掃不能再草率了。牆上儘是一縷 縷灰塵,到處都是成團的塵土和髒東西。起初格里高爾在妹 妹要來的時候總待在特別骯髒的角落裡,他的用意也算是以 此責難她。可是即使他再蹲上幾個星期也無法使她有所改進 ;她跟他一樣完全看得見這些塵土,可就是決心不管。

妹も彼とまったく同じくらいに汚れを見ているのだが、妹はそれをほっておこうと決心したのだ。その場合に妹は、およそ家族全員をとらえてしまった、これまでの彼女には見られなかったような敏感さで、グレゴールの部屋の掃除は今でも自分の仕事であるという点を監視するのだった。あるとき、母親がグレゴールの部屋の大掃除を企てた。母親はただ二、三杯のバケツの水を使うことだけでその掃除をやり終えることができた。――とはいっても、部屋がびしょぬれになってグレゴールは機嫌をそこねてしまい、ソファの上にどっかと、腹立たしげに身動きもしないで構えていた――ところが、母親にその罰が訪れないではいなかった。というのは、夕方、妹がグレゴールの部屋の変化に気づくやいなや、彼女はひどく侮辱されたと感じて居間にかけこみ、母親が両手を高く上げて嘆願するにもかかわらず、身をふるわせて泣き始めた。両親は――父親はむろん安楽椅子からびっくりして跳ね起きたのだった――はじめはそれにびっくりして、途方にくれてながめていたが、ついに二人も動き出した。右側では父親が、グレゴールの部屋の掃除は妹にまかせておかなかったというので母親を責めるし、左側では妹のほうが、もう二度とグレゴールの部屋の掃除はしてやらないとわめく。母親は、興奮してわれを忘れている父親を寝室へひきずっていこうとする。妹は泣きじゃくって身体をふるわせながら、小さな拳でテーブルをどんどんたたく。そしてグレゴールは、ドアを閉めて、自分にこんな光景とさわぎとを見せないようにしようとだれも思いつかないことに腹を立てて、大きな音を出してしっしっというのだった。

不但 如此,她新近脾氣還特別暴躁,這也不知怎的傳染給了全家 人,這種脾氣使她認定自己是格里高爾房間唯一的管理人。 他的母親有一回把他的房間徹底掃除了一番,其實不過是用 了幾桶水罷了--房間的潮濕當然使格里高爾大為狼狽,他 攤開身子陰鬱地一動不動地躺在沙發上--可是母親為這事 也受了罪。那天晚上,妹妹剛察覺到他房間所發生的變化, 就怒不可遏地衝進起坐室,而且不顧母親舉起雙手苦苦哀求, 竟號啕大哭起來,她的父母--父親當然早就從椅子裡驚醒 站立起來了--最初只是無可奈何地愕然看著,接着也捲了 進來;父親先是責怪右邊的母親,說打掃格里高爾的房間本 來是女兒的事,她真是多管閒事;接着又尖聲地對左邊的女 兒嚷叫,說以後再也不讓她去打掃格里高爾的房間了;而母 親呢,卻想把父親拖到臥室裡去,因為他已經激動得不能控 制自己了;妹妹哭得渾身發抖,只管用她那小拳頭擂打桌子; 格里高爾也氣得發出很響的嗤嗤聲,因為沒有人想起關上門, 省得他看到這一場好戲,聽到這麼些熱閙。

しかし、たとい妹が勤めで疲れきってしまい、以前のようにグレゴールの世話をすることにあきあきしてしまっても、母親はけっして妹のかわりをする必要はないし、グレゴールもほったらかしにされる心配はなかったろう。というのは、今では例の手伝い婆さんがいたのだ。長い一生をそのたくましい骨太の身体の助けで切り抜けてきたように見えるこの後家婆さんは、グレゴールをそれほど嫌わなかった。あるとき、別に好奇心に駆られたというのでもなく、偶然、グレゴールの部屋のドアを開け、だれも追い立てるわけでもないのにひどく驚いてしまったグレゴールがあちこちとはい廻り始めたのをながめると、両手を腹の上に合わせてぽかんと立ちどまっているのだった。それ以来、つねに朝晩ちょっとのあいだドアを少しばかり開けて、グレゴールのほうをのぞきこむことを忘れなかった。はじめのうちは、グレゴールを自分のほうに呼ぼうとするのだった。それには、「こっちへおいで、かぶと虫のじいさん!」とか、「ちょっとあのかぶと虫のじいさんをごらんよ」とか、おそらく婆さんが親しげなものと考えているらしい言葉をかけてくるのだ。こうした呼びかけに対してグレゴールは全然返事をせずに、ドアがまったく開けられなかったかのように、自分の居場所から動かなかった。この手伝い婆さんに気まぐれで役にも立たぬじゃまなんかさせていないで、むしろ彼の部屋を毎日掃除するように命じたほうがよかったろうに――ある早朝のこと――はげしい雨がガラス窓を打っていた。おそらくすでに春が近いしるしだろう――手伝い婆さんがまた例の呼びかけを始めたとき、グレゴールはすっかり腹を立てたので、たしかにのろのろとおぼつかなげにではあったが、婆さんに向って攻撃の身構えを見せた。ところが、手伝い婆さんは恐れもせずに、ただドアのすぐ近くにあった椅子を高く振り上げた。大きく口を開けて立ちはだかっている様子を見ると、手にした椅子がグレゴールの背中に振り下ろされたらはじめて口をふさぐつもりなのだ、ということを明らかに示していた。「それじゃあ、それっきりなのかい」と、グレゴールがまた向きなおるのを見て言い、椅子をおとなしく部屋の片隅にもどした。

可是,即使妹妹因為一天工作下來疲累不堪,已經懶得 像先前那樣去照顧格里高爾了,母親也沒有自己去管的必要, 而格里高爾倒也根本不會給忽視,因為現在有那個老媽子了。 這個老寡婦的結實精瘦的身體使她經受了漫長的一生中所有 最最厲害的打擊,她根本不怕格里高爾。她有一次完全不是 因為好奇,而純粹是出於偶然打開了他的房門,看到了格里 高爾,格里高爾吃了一驚,便四處奔跑了起來,其實老媽子 根本沒有追他,只是叉着手站在那兒罷了。從那時起,一早 一晚,她總不忘記花上幾分鐘把他的房門打開一些來看看他。 起先她還用自以為親熱的話招呼他,比如:“來呀,嗨,你 這只老屎殻郎!”或者是:“瞧這老屎殻郎哪,嚇!”對於 這樣的攀談格里高爾置之不理,只是一動不動地待在原處, 就當那扇門根本沒有開。與其容許她興緻一來就這樣無聊地 滋擾自己,還不如命令她天天打掃他的房間呢,這粗老媽子! 有一次,是在清晨--急驟的雨點敲打着窗玻璃,這大概是 春天快來臨的徵兆吧--她又來羅嗦了,格里高爾好不惱怒, 就向她衝去,彷彿要咬她似的,雖然他的行動既緩慢又軟弱 無力。可是那個老媽子非但不害怕,反而把剛好放在門旁的 一張椅子高高舉起,她的嘴張得老大,顯然是要等椅子往格 裡高爾的背上砸去才會閉上。“你又不過來了嗎?”看到格 裡高爾掉過頭去,她一面問,一面鎮靜地把椅子放回牆角。

グレゴールは今ではもうほとんど何も食べなくなっていた。ただ、用意された食べもののそばを偶然通り過ぎるときにだけ、遊び半分に一かけ口のなかに入れるが、何時間でも口のなかに入れておいて、それからたいていは吐き出すのだ。はじめは、彼に食事をさせなくしているのは、この部屋の状態を悲しむ気持からだ、と考えていたが、部屋がいろいろ変わることにはすぐに慣れてしまった。ほかのところには置くことができない品物はこの部屋に置くという習慣になってしまっていたが、そうした品物はたくさんあった。住居の一室を三人の男の下宿人に貸したからだった。このきまじめな人たちは――グレゴールがあるときドアのすきまから確認したところによると、三人とも顔じゅう髯を生やしていた――ひどく整頓が好きで、ただ自分たちの部屋ばかりではなく、ひとたびこの家に間借りするようになったからには、家全体について、ことに台所での整頓のことに気をくばった。不必要なものや汚ないがらくたには我慢できなかった。その上、彼らは調度品の大部分は自分たちのものをもってきていた。そのために多くの品物は不要となったが、それらは売るわけにもいかないし、さりとて捨ててしまいたくもないのだった。そうした品物がみなグレゴールの部屋に移されてきた。そんなふうにして、灰捨て箱とくず箱とが台所からやってきた。およそ今のところ不要なものは、いつでもひどくせっかちな手伝い婆さんが簡単にグレゴールの部屋へ投げ入れてしまう。ありがたいことに、グレゴールにはたいていは運ばれてくる品物とそれをもっている手としか見えなかった。手伝い婆さんはおそらく、いつか機会を見てそれらの品物をまた取りにくるか、あるいは全部を一まとめにして投げ捨てるかするつもりだったのだろうが、実際にはそれらを最初投げ入れた場所にほうりぱなしにしておいた。しかし、グレゴールはがらくたがじゃまになって、まがりくねって歩かなければならなかったので、それを動かすことがあった。はじめはそうしないとはい廻る場所がなくなるのでしかたなしにやったのだが、のちにはだんだんそれが面白くなったのだった。そうはいうものの、そんなふうにはい廻ったあとでは死ぬほど疲れてしまって悲しくなり、またもや何時間も動かないでいるのだった。

格里高爾現在簡直不吃東西了。只有在他正好經過食物 時才會咬上一口,作為消遣,每次都在嘴裡嚼上一個小時, 然後又重新吐掉。起初他還以為他不想吃是因為房間裡凌亂 不堪,使他心煩,可是他很快也就習慣了房間裡的種種變化。 家裡人已經養成習慣,把別處放不下的東西都塞到這兒來, 這些東西現在多得很,因為家裡有一個房間租給了三個房客。 這些一本正經的先生--他們三個全都蓄着大鬍子,這是格 裡高爾有一次從門縫裡看到的--什麼都要井井有條,不光 是他們的房間裡得整齊,因為他們既然已經是這個家庭的一 員了,他們就要求整個屋子所有的一切都得如此,特別是廚 房。他們無法容忍多餘的東西,更不要說髒東西了。此外, 他們自己用得着的東西几乎都帶來了。因此就有許多東西多 了出來,賣出去既不值錢,扔掉也捨不得。這一切都千流歸 大海,來到了格里高爾的房間。同樣,連煤灰箱和垃圾箱也 來了。凡是暫時不用的東西都乾脆給那老媽子扔了進來,她 做什麼都那麼毛手毛腳;幸虧格里高爾往往只看見一隻手扔 進來一樣東西,也不管那是什麼。她也許是想等到什麼時機 再把東西拿走吧,也許是想先堆起來再一起扔掉吧,可是實 際上東西都是她扔在哪兒就在哪兒,除非格里高爾有時嫌礙 路,把它推開一些,這樣做最初是出於必須,因為他無處可 爬了,可是後來卻從中得到越來越多的樂趣,雖則在這樣的 長途跋涉之後,由於悒鬱和極度疲勞,他總要一動不動地一 連躺上好幾個小時。

下宿人たちはときどき夕食も家で共同の居間で取るのだった。そのため居間のドアは多くの晩に閉ざされたままだ。だが、グレゴールはドアを開けるということをまったく気軽にあきらめた。ドアが開いている多くの晩でさえも、それを十分に利用しないでいて、家族には気づかれずに自分の部屋のいちばん暗い片隅に横たわっていた。ところが、あるとき、手伝い婆さんが居間へ通じるドアを少しばかり開け放しにした。下宿人たちが晩方入ってきて、明りをつけたときにも、ドアは開いたままだった。三人はテーブルのかみ手に坐った。以前は父親と母親とグレゴールとが坐った場所だ。そして三人はナプキンを拡げ、ナイフとフォークとを手に取った。すぐにドアのところに肉の皿をもった母親が現われ、彼女のすぐあとから妹が山盛りのじゃがいもの皿をもって現われた。食べものはもうもうと湯気を立てていた。下宿人たちは食べる前に調べようとするかのように、自分たちの眼の前に置かれた皿の上へ身をかがめた。そして実際、まんなかに坐っていて、ほかの二人には権威をもっているように見える男が、皿の上で一片の肉を切った。それが十分柔かいかどうか、台所へ突っ返さなくてもよいかどうか、たしかめようとしているらしかった。しかし、その男が満足したので、緊張してながめていた母親と妹とは、ほっと息をついて微笑し始めた。

由於房客們常常要在家裡公用的起坐室裡吃晚飯,有許 多個夜晚房門都得關上,不過格里高爾很容易也就習慣了, 因為晚上即使門開着他也根本不感興趣,只是躺在自己房間 最黑暗的地方,家裡人誰也不注意他。不過有一次老媽子把 門開了一道縫,門始終微開着,連房客們進來吃飯點亮了燈 的時候也是如此。他們大模大樣地坐在桌子的上首,在過去, 這是父親、母親和格里高爾吃飯時坐的地方,三個人攤開餐 巾,拿起了刀叉。立刻,母親出現在對面的門口,手裡端了 一盤肉,緊跟着她的是妹妹,拿的是一盤堆得高高的土豆。 食物散髮着濃密的水蒸氣。房客們把頭傴在他們前面的盤子 上,彷彿在就餐之前要細細察看一番似的,真的,坐在當中 像是權威人士的那一位,等肉放到碟子裡就割了一塊下來, 顯然是想看看夠不夠嫩,是否應該退給廚房。他作出滿意的 樣子,焦急地在一旁看著的母親和妹妹這才舒暢地鬆了口氣, 笑了起來。

家族の者たち自身は台所で食事をした。それでも父親は台所へいく前にこの部屋へ入っていき、一回だけお辞儀をすると、制帽を手にもち、テーブルのまわりをぐるりと廻る。下宿人たちはみんな立ち上がって、髯のなかで何かをつぶやく。つぎに彼らだけになると、ほとんど完全な沈黙のうちに食事をする。食事中のあらゆる物音からたえずものをかむ歯の音が聞こえてくることが、グレゴールには奇妙に思われた。まるで食べるためには歯が必要であり、いくらりっぱでも歯のない顎あごではどうすることもできないということをグレゴールに示そうとするかのようだった。グレゴールは心配そうに自分に言い聞かせた。 「おれは食欲があるが、あんなものはいやだ。あの人たちはものを食べて栄養を取っているのに、おれは死ぬのだ!」

家裡的人現在都到廚房去吃飯了。儘管如此,格里高爾 的父親到廚房去以前總要先到起坐室來,手裡拿着帽子,深 深地鞠一躬,繞着桌子轉上一圈。房客們都站起來,鬍子裡 含含糊糊地哼出一些聲音。父親走後,他們就簡直不發一聲 地吃他們的飯。格里高爾自己也覺得奇怪,他竟能從飯桌上 各種不同的聲音中分辨出他們的咀嚼聲,這聲音彷彿在向格 裡高爾示威:要吃東西就不能沒有牙齒,即使是最堅強的牙 床,只要沒有牙齒,也算不了什麼。“我餓壞了,”格里高 爾悲哀地自言自語道,“可是又不能吃這種東西。這些房客 拚命往自己肚子裡塞,可是我卻快要餓死了!”

まさにその夜のことだったが――あれからずっと、グレゴールはヴァイオリンの音を聞いたおぼえがなかった――ヴァイオリンの音が台所から聞こえてきた。下宿人たちはもう夕食を終え、まんなかの男が新聞を引っ張り出し、ほかの二人に一枚ずつ渡した。そして、三人とも椅子にもたれて読み、煙草をふかしていた。ヴァイオリンが鳴り始めると、三人はそれに気づき、立ち上がって、爪立ちで歩いて玄関の間へいき、そこで身体をよせたまま立ちつづけていた。台所にいても彼らの物音が聞こえたらしい。父親がこう叫んだ。 「みなさんにはヴァイオリンの音がお気にさわるんではありませんか。なんならすぐやめさせますが」 「どうしまして」と、まんなかの男がいった。 「お嬢さんはわれわれのところにこられて、この部屋で弾かれたらどうです? こちらのほうがずっといいし、気持もいいですよ」 「それでは、そう願いますか」と、父親はまるで自分がヴァイオリンを弾いているかのように答えた。三人は部屋にもどって待っていた。まもなく父親は譜面台をもち、母親は楽譜を、妹はヴァイオリンをもってやってきた。妹は落ちついて演奏の準備をすっかりすませた。両親はこれまで一度も間貸しをしたことがなく、そのために下宿人たちに対する礼儀の度を超していたが、自分たちの椅子に坐ろうとはけっしてしなかった。父親はドアにもたれ、きちんとボタンをかけた制服の上衣のボタン二つのあいだに右手をさし入れていた。母親のほうは下宿人の一人に椅子をすすめられ、その人が偶然すすめた椅子が部屋のわきのほうの片隅にあったので、そこに坐りつづけていた。

就在這天晚上,廚房裡傳來了小提琴的聲音--格里高 爾蟄居以來,就不記得聽到過這種聲音。房客們已經用完晚 餐了,坐在當中的那個拿出一份報紙,給另外兩個人一人一 頁,這時他們都舒舒服服往後一靠,一面看報一面抽菸。小 提琴一響他們就豎起耳朵,站起身來,躡手躡腳地走到前廳 的門口,三個人擠成一堆,廚房裡準是聽到了他們的動作聲, 因為格里高爾的父親喊道:“拉小提琴妨礙你們嗎,先生們? 可以馬上不拉的。”“沒有的事,”當中那個房客說,“能 不能請小姐到我們這兒來,在這個房間里拉,這兒不是方便 得多舒服得多嗎?”“噢,當然可以。”格里高爾的父親喊 道,彷彿拉小提琴的是他似的。於是房客們就回進起坐室去 等了。很快,格里高爾的父親端了琴架,母親拿了樂譜,妹 妹挾着小提琴進來了。妹妹靜靜地作着一切準備;他的父母 從來沒有出租過房間,因此過分看重了對房客的禮貌,都不 敢在自己的椅子上坐下來了;父親靠在門上,右手插在號衣 兩顆鈕扣之間,鈕扣全扣得整整齊齊的;有一位房客端了一 把椅子請母親坐,他正好把椅子放在牆角邊,她也沒敢挪動 椅子,就在牆角邊坐了下來。

妹は弾き始めた。父親と母親とはそれぞれ自分のいる位置から注意深く妹の両手の動きを目で追っていた。グレゴールは演奏にひきつけられて少しばかり前へのり出し、もう頭を居間へ突っこんでいた。最初は自分が他人のことをもう顧慮しなくなっていることが、彼にはほとんどふしぎに思われなかった。以前には、この他人への顧慮ということが彼の誇りだった。しかも、彼は今こそいっそう自分の身を隠していい理由をもっていた。というのは、部屋のなかのいたるところに横たわっているごみが、ちょっとでも身体を動かすと舞い上がり、そのごみをすっかり身体にかぶっていた。糸くずとか髪の毛とか食べものの残りかすを背中やわき腹にくっつけてひきずって歩いているのだ。あらゆることに対する彼の無関心はあまりに大きいので、以前のように一日に何度も仰向けになって、絨毯に身体をこすりつけることもしなくなっていた。こんな状態であるにもかかわらず、少しも気おくれを感じないで、非の打ちどころのないほど掃除のゆきとどいている居間の床の上へ少しばかり乗り出していった。

格里高爾的妹妹開始拉琴了; 在她兩邊的父親和母親用 心地瞧著她雙手的動作。格里高爾受到吸引,也大膽地向前 爬了幾步,他的頭實際上都已探進了起坐室。他對自己越來 越不為別人着想几乎已經習以為常了;有一度他是很以自己 的知趣而自豪的。這樣的時候他實在更應該把自己藏起來才 是,因為他房間裡灰塵積得老厚,稍稍一動就會飛揚起來, 所以他身上也蒙滿灰塵,背部和兩側都沾滿了絨毛、髮絲和 食物的渣腳,走到哪裡就帶到哪裡;他現在對一切都無動于 衷,已經不屑于像過去有個時期那樣,一天翻過身來在地毯 上擦上幾次了。儘管現在這麼邋遢,他卻老着臉皮地走前幾 步,來到起坐室一塵不染的地板上。

とはいえ、ほかの人たちのほうも彼に気づく者はいなかった。家族の者はすっかりヴァイオリンの演奏に気を取られていた。それに反して、下宿人たちははじめは両手をポケットに突っこんで、妹の譜面台のすぐ近くに席を占めていた。あまりに近いので三人とも楽譜をのぞきこめるくらいだった。そんなことをやったら、妹のじゃまになったことだろう。ところが、やがて低い声で話し合いながら、頭を垂れたまま窓のほうへ退いていった。父親が心配そうに見守るうちに、彼らはその窓ぎわにとどまっていた。すばらしい、あるいは楽しいヴァイオリン演奏を聞くつもりなのが失望させられ、演奏全体にあきあきして、ただ儀礼から我慢しておとなしくしているのだということは、実際見ただけではっきりわかることだった。ことに、三人が鼻と口とから葉巻の煙を高く吹き出しているやりかたは、ひどくいらいらしているのだということを推量させた。しかし、妹はとても美しく弾いていた。彼女の顔は少しわきに傾けられており、視線は調べるように、また悲しげに楽譜の行を追っている。グレゴールはさらに少しばかり前へはい出し、頭を床にぴったりつけて、できるなら彼女の視線とぶつかってやろうとした。音楽にこんなに心を奪われていても、彼は動物なのだろうか。彼にはあこがれていた未知の心の糧かてへの道が示されているように思えた。妹のところまで進み出て、彼女のスカートを引っ張って、それによってヴァイオリンをもって自分の部屋へきてもらいたいとほのめかそう、と決心した。というのは、ここにいるだれ一人として、彼がしたいと思っているほど彼女の音楽に応こたえる者はいないのだ。彼はもう妹を自分の部屋から出したくなかった。少なくとも自分が生きているあいだは、出したくなかった。彼の恐ろしい姿ははじめて彼の役に立つだろうと思われた。自分の部屋のどのドアも同時に見張っていて、侵入してくる者たちにほえついてやるつもりだ。だが、妹はしいられてではなく、自由意志で自分のところにとどまらなければならない。ソファの上で彼のわきに坐り、耳を彼のほうに傾けてくれるのだ。そこで彼は妹に、自分は妹を音楽学校に入れることにはっきり心をきめていたのであり、もしそのあいだにこんな事故が起こらなかったならば、去年のクリスマスに――クリスマスはやっぱりもう過ぎてしまったのだろうか――どんな反対も意に介することなくみんなにいっていたことだろう、と打ち明けてやる。こう説明してやれば、妹は感動の涙でわっと泣き出すことだろう。そこでグレゴールは彼女の肩のところまでのび上がって、首に接吻してやるのだ。店へいくようになってからは、妹はリボンもカラーもつけないで首を丸出しにしているのだった。

顯然,誰也沒有注意到他。家裡人完全沉浸在小提琴的 音樂聲中;房客們呢,他們起先雙手插在口袋裏,站得離樂 譜那麼近,以致都能看清樂譜了,這顯然對他妹妹是有所妨 礙的,可是過不了多久他們就退到窗子旁邊,低着頭竊竊私 語起來,使父親向他們投來不安的眼光。的確,他們表示得 不能再露骨了,他們對於原以為是優美悅耳的小提琴演奏已 經失望,他們已經聽夠了,只是處于禮貌才讓自己的寧靜受 到打擾。從他們不斷把煙從鼻子和嘴裡噴向空中的模樣,就 可以看出他們的不耐煩。可是格里高爾的妹妹琴拉得真美。 她的臉側向一邊,眼睛專注而悲哀地追遁着樂譜上的音符。 格里高爾又向前爬了幾步,而且把頭低垂到地板上,希望自 己的眼光也許能遇上妹妹的視線。音樂對他有這麼大的魔力, 難道因為他是動物嗎?他覺得自己一直渴望着某種營養,而 現在他已經找到這種營養了。他決心再往前爬,一直來到妹 妹的跟前,好拉拉她的裙子讓她知道,她應該帶了小提琴到 他房間裡去,因為這兒誰也不像他那樣欣賞她的演奏。他永 遠也不讓她離開他的房間,至少,只要他還活着;他那可怕 的形狀將第一次對自己有用;他要同時守望着房間裡所有的 門,誰闖進來就啐誰一口;他妹妹當然不受任何約束,她願 不願和他待在一起那要隨她的便;她將和他並排坐在沙發上, 俯下頭來聽他吐露他早就下定的要送她進音樂學院的決心, 要不是他遭到不幸,去年聖誕節--聖誕節準是早就過了吧? --他就要向所有人宣佈了,而且他是完全不容許任何反對 意見的。在聽了這樣的傾訴以後,妹妹一定會感動得熱淚縱 橫,這時格里高爾就要爬上她的肩膀去吻她的脖子,由於出 去做事,她脖子上現在已經不繫絲帶,也沒有高領子。

「ザムザさん!」と、まんなかの男が父親に向って叫び、それ以上は何もいわずに、人差指でゆっくりと前進してくるグレゴールをさし示した。ヴァイオリンの音がやみ、まんなかの下宿人ははじめは頭を振って二人の友人ににやりと笑って見せたが、つぎにふたたびグレゴールを見やった。父親は、グレゴールを追い払うかわりに、まず下宿人たちをなだめることのほうがいっそう必要だと考えているようであった。とはいっても、三人は全然興奮なんかしていないし、グレゴールのほうがヴァイオリンの演奏よりも彼らを面白がらせているように見えた。父親は三人のほうに急いでいき、両腕を拡げて彼らの部屋へ押しもどそうとし、同時に、自分の身体でグレゴールの姿が見えなくなるようにしようとした。今度は三人がほんとうに少しばかり気を悪くした。父親の態度に気を悪くしたのか、グレゴールのような隣室の住人がいるものとは知らなかったのに、今やっとそれがわかってきたことに気を悪くしたのか、それはもうなんともいえなかった。三人は父親に説明を求め、三人のほうで腕を振り上げ、落ちつかなげに髯を引っ張り、ほんのゆっくりした歩みで自分たちの部屋のほうへ退いていった。そうしているあいだに、突然演奏をやめて放心状態でいた妹はやっと正気を取りもどし、しばらくのあいだだらりと垂れた両手にヴァイオリンと弓とをもって、まだ演奏しているかのように楽譜をながめつづけていたが、突然身を起こすと、はげしい肺の活動をともなう呼吸困難に陥ってまだ自分の椅子に坐っていた母親の膝の上に楽器を置き、隣室へとかけこんでいった。三人の下宿人たちは、父親に押しまくられてすでにさっきよりは早い足取りでその部屋へ近づいていた。妹が慣れた手つきでベッドのふとんや枕を高く飛ばしながら寝具の用意を整えるのが見えた。三人が部屋へたどりつくよりも前に、妹はベッドの用意をすませてしまい、ひらりと部屋から脱け出ていた。父親はまたもや気ままな性分にすっかりとらえられてしまったらしく、ともかく下宿人に対して払わなければならないはずの敬意を忘れてしまった。彼は三人をただ押しまくっていったが、最後に部屋のドアのところでまんなかの人が足を踏み鳴らしたので、父親はやっととまった。 「私はここにはっきりというが」と、その人は片手を挙げ、眼で母親と妹とを探した。「この住居および家族のうちに支配しているいとわしい事情を考えて」――ここでとっさの決心をして床につばを吐いた――「私の部屋をただちに出ていくことを通告します。むろん、これまでの間借料も全然支払いません。それに反して、きわめて容易に理由づけることができるはずのなんらかの損害賠償要求をもって――いいですかな――あなたを告訴すべきものかどうか、考えてみるつもりです」彼は沈黙して、まるで何かを待ちかまえているかのように自分の前を見つめていた。 「われわれもただちに出ていきます」と、はたして彼の二人の友人もすぐさま口を出した。まんなかの男はドアの取手をつかみ、ばたんと音を立ててドアを閉めた。

“薩姆沙先生!”當中的那個房客向格里高爾的父親喊 道,一面不多說一句話地指着正在慢慢往前爬的格里高爾。 小提琴聲戛然而止,當中的那個房客先是搖着頭對他的朋友 笑了笑,接着又瞧起格里高爾來。父親並沒有來趕格里高爾, 卻認為更要緊的是安慰房客,雖然他們根本沒有激動,而且 顯然覺得格里高爾比小提琴演奏更為有趣。他急忙向他們走 去,張開胳膊,想勸他們回到自己房間去,同時也是擋住他 們,不讓他們看見格里高爾。他們現在倒真的有點兒惱火了, 也說不上來到底是因為老人的行為呢還是因為他們如今才發 現住在他們隔壁的竟是格里高爾這樣的鄰居。他們要求父親 解釋清楚,也跟他一樣揮動着胳膊,不安地拉著自己的鬍子, 萬般不情願地向自己的房間退去。格里高爾的妹妹從演奏突 然給打斷後就獃若木鷄,她拿了小提琴和弓垂着手不安地站 着,眼睛瞪着樂譜,這時也清醒了過來。她立刻打起精神, 把小提琴往坐在椅子上喘得透不過氣來的母親的懷裡一塞, 就衝進了房客們房間,這時,父親像趕羊似地把他們趕得更 急了。可以看見被縟和枕頭在她熟練的手底下在床上飛來飛 去,不一會兒就鋪得整整齊齊。三個房客尚未進門她就鋪好 了床溜出來了。老人好像又一次讓自己犟脾氣占了上風,竟 完全忘了對房客應該尊敬。他不斷地趕他們,最後來到臥室 門口,那個當中的房客都用腳重重地頓地板了,這才使他停 下來。那個房客舉起一隻手,一邊也對格里高爾的母親和妹 妹掃了一眼,他說:“我要求宣佈,由於這個住所和這家人 家的可憎的狀況。”--說到這裡他斬釘截鐵地往地上啐了 一口--“我當場通知退租。我住進來這些天的房錢當然一 個也不給;不但如此,我還打算向您提出對您不利的控告, 所依據的理由--請您放心好了--也是證據確鑿的。”他 停了下來,瞪着前面,彷彿在等待什麼似的。這時他的兩個 朋友也就立刻衝上來助威,說道:“我們也當場通知退租。” 說完為首的那個就抓住把手砰的一聲帶上了門。 格里高爾的父親用雙手摸索着踉踉蹌蹌地往前走了幾步 ,跌進了他的椅子;看上去彷彿打算攤開身子像平時晚間那 樣打個瞌睡,可是他的頭分明在顫抖,好像自己也控制不了, 這證明他根本沒有睡着。在這些事情發生前後,格里高爾還 是一直安靜地待在房客發現他的原處。計劃失敗帶來的失望, 也許還有極度饑餓造成的衰弱,使他無法動彈。他很害怕, 心裡算準這樣極度緊張的局勢隨時都會導致對他發起總攻擊, 於是他就躺在那兒等待着。就連聽到小提琴從母親膝上、從 顫抖的手指裡掉到地上,發出了共鳴的聲音,他還是毫無反 應。

父親は手探りで自分の椅子までよろめいていき、どかりと腰を下ろした。まるでいつものように晩の居眠りをするために手足をのばしたように見えた。だが、ぐらぐらする頭が強くうなずいていることで、彼が全然眠っていないことがわかった。グレゴールはこうしたことが行われるあいだじゅう、下宿人たちが彼を見つけた場所にじっととどまっていた。自分の計画の失敗に対する失望と、またおそらくはあまりに空腹をつづけたことから起った衰弱とのために、身体を動かすことができなかった。彼はつぎの瞬間にはどっといろいろなものが墜落してくるだろう、と早くもある確信をもって恐れ、それを待ちかまえていた。ヴァイオリンが母親のふるえる指のあいだをすべって膝から床へと落ち、がたんと響きを立てたことも、彼をびっくりさせて動き出させることは全然なかった。

“親愛的爸爸媽媽,”妹妹說話了,一面用手在桌子上 拍了拍,算是引子,“事情不能再這樣拖下去了。你們也許 不明白,我可明白。對這個怪物,我沒法開口叫他哥哥,所 以我的意思是:我們一定得把他弄走。我們照顧過他,對他 也算是仁至義盡了,我想誰也不能責怪我們有半分不是了。”

「お父さん、お母さん」と、妹はいって、話に入る前に手でテーブルを打った。「もうこれまでだわ。あなたがたはおそらくわからないのでしょうが、わたしにはわかります。こんな怪物の前で兄さんの名前なんかいいたくはないわ。だから、わたしたちはこいつから離れようとしなければならない、とだけいうわ。こいつの世話をし、我慢するために、人間としてできるだけのことをやろうとしてきたじゃないの。だれだって少しでもわたしたちを非難することはできないと思うわ」 「これのいうのはまったくもっともだ」と、父親はつぶやいた。まだ十分に息をつけないでいる母親は、狂ったような目つきをして、口に手を当てて低い音を立てながら咳をし始めた。

“她說得對極了。”格里高爾的父親自言自語地說。母 親仍舊因為喘不過氣來憋得難受,這時候又一手捂着嘴乾咳 起來,眼睛裡露出瘋狂的神色。

妹は母親のところへ急いでいき、彼女の額を支えてやった。父親は妹の言葉を聞いて、何か考えがきまったように見えた。身体をまっすぐにして坐ると、下宿人たちの夕食からまだテーブルの上に置き放しになっている皿のあいだで小使の制帽をもてあそんでいたが、ときどきじっとしているグレゴールの上に視線を投げている。

他妹妹奔到母親跟前,抱住了她的頭。父親的頭腦似乎 因為葛蕾特的話而茫然不知所從了;他直挺挺地坐著,手指 撫弄着他那頂放在房客吃過飯還未撤下去的盆碟之間的制帽, 還不時看看格里高爾一動不動的身影。

「わたしたちはこいつから離れなければならないのよ」と、妹はもっぱら父親に向っていった。母親のほうは咳せきこんで何も聞こえないのだ。 「こいつはお父さんとお母さんとを殺してしまうわ。そうなることがわたしにはわかっています。わたしたちみんなのように、こんなに苦労して働かなければならないときには、その上に、家でもこんな永久につづく悩みなんか辛抱できないわ。わたしももう辛抱できないわ」そして、彼女ははげしく泣き始めたので、涙が母親の顔の上にかかった。妹は機械的に手を動かしてその涙をぬぐってやった。

“我們一定要把他弄走,”妹妹又一次明確地對父親說, 因為母親正咳得厲害,根本連一個字也聽不見,“他會把你 們拖垮的,我知道準會這樣。咱們三個人都已經拼了命工作, 再也受不了家裡這樣的折磨了。至少我是再也無法忍受了。” 說到這裡她痛哭起來,眼淚都落在母親臉上,於是她又機械 地替母親把淚水擦乾。

「お前」と、父親は同情をこめ、まったくそのとおりだというような調子でいった。「でも、どうしたらいいんだろうな?」

“我的孩子,”老人同情地說,心裡顯然非常明白,“ 不過我們該怎麼辦呢?”

妹は、途方にくれていることを示すために肩をすぼめた。泣いているあいだに、さっきの断固とした態度とは反対に、どうしていいのかわからなくなっていたのだった。

格里高爾的妹妹只是聳聳肩膀,表示雖然她剛纔很有自 信心,可是哭過一場以後,又覺得無可奈何了。

「あいつがわれわれのことをわかってくれたら」と、父親は半ばたずねるようにいった。妹は泣きながらはげしく手を振った。そんなことは考えられない、ということを示すものだった。

“如果他能懂得我們的意思。”父親半帶疑問地說;還 在哭泣的葛蕾特猛烈地揮了一下手,表示這是不可思議的。

「あいつがわれわれのことをわかってくれたら」と、父親はくり返して、眼を閉じ、そんなことはありえないという妹の確信を自分でも受け容れていた。「そうしたらおそらくあいつと話をつけることができるんだろうが。だが、こんなふうじゃあねえ――」

“如果他能懂得我們的意思,”老人重複說,一面閉上 眼睛,考慮女兒的反面意見,“我們倒也許可以和他談妥。 不過事實上--”

「あいつはいなくならなければならないのよ」と、妹は叫んだ。「それがただ一つの手段よ。あいつがグレゴールだなんていう考えから離れようとしさえすればいいんだわ。そんなことをこんなに長いあいだ信じていたことが、わたしたちのほんとうの不幸だったんだわ。でも、あいつがグレゴールだなんていうことがどうしてありうるでしょう。もしあいつがグレゴールだったら、人間たちがこんな動物といっしょに暮らすことは不可能だって、とっくに見抜いていたでしょうし、自分から進んで出ていってしまったことでしょう。そうなったら、わたしたちにはお兄さんがいなくなったでしょうけれど、わたしたちは生き延びていくことができ、お兄さんの思い出を大切にしまっておくことができたでしょう。ところが、この動物はわたしたちを追いかけ、下宿人たちを追い出すのだわ。きっと住居全体を占領し、わたしたちに通りで夜を明かさせるつもりなのよ。ちょっとみてごらんなさい、お父さん」と、妹は突然叫んだ。「またやり出したわよ!」

そして、グレゴールにもまったくわからないような恐怖に襲われて、妹は母親さえも離れ、まるで、グレゴールのそばにいるよりは母親を犠牲にしたほうがましだといわんばかりに、どう見ても母親を椅子から突きとばしてしまい、父親のうしろへ急いで逃げていった。父親もただ娘の態度を見ただけで興奮してしまい、自分でも立ち上がると、妹をかばおうとするかのように両腕を彼女の前に半ば挙げた。

“他一定得走,”格里高爾的妹妹喊道,“這是唯一的 辦法,父親。你們一定要拋開這個念頭,認為這就是格里高 爾。我們好久以來都這樣相信,這就是我們一切不幸的根源。 這怎麼會是格里高爾呢?如果這是格里高爾, 他早就會明白 人是不能跟這樣的動物一起生活的,他就會自動地走開。 這 樣,我雖然沒有了哥哥,可是我們就能生活下去,並且會尊 敬地紀唸著他。可現在呢,這個東西把我們害得好苦,趕走 我們的房客,顯然想獨霸所有的房間,讓我們都睡到溝壑裡 去。瞧呀,父親,”她立刻又尖聲叫起來,“他又來了!” 在格里高爾所不能理解的驚惶失措中她竟拋棄了自己的母親 ,事實上她還把母親坐著的椅子往外推了推,彷彿是為了離 格里高爾遠些,她情願犧牲母親似的。接着她又跑到父親背 後,父親被她的激動弄得不知如何是好,也站了起來張開手 臂彷彿要保護她似的。

しかし、グレゴールは、だれかを、まして妹を不安に陥れようなどとは考えてもみなかった。彼はただ、自分の部屋へもどっていこうとして、身体の向きを変え始めていただけだった。そうはいっても、その動作がひどく目立った。今の苦しい状態のために、困難な回転をやる場合に頭の助けを借りなければならなかったからだ。そこで頭を何度ももたげては、床に打ちつけた。彼はじっととまって、あたりを見廻した。彼の善意はみとめられたようだった。人びとはただ一瞬ぎょっとしただけだった。そこでみんなは、沈黙したまま、悲しげに彼をじっと見つめた。母親は両脚をぴったりつけたまま前へのばして、椅子に坐っていた。疲労のあまり、眼がほとんど自然に閉じそうだった。父親と妹とは並んで坐り、妹は片手を父親の首に廻していた。

可是格里高爾根本沒有想嚇唬任何人,更不要說自己的 妹妹了。他只不過是開始轉身,好爬回自己的房間去,不過 他的動作瞧著一定很可怕,因為在身體不靈活的情況下,他 只有昂起頭來一次又一次地支着地板,才能完成困難的向後 轉的動作。他的良好的意圖似乎給看出來了;他們的驚慌只 是暫時性的。現在他們都陰鬱而默不作聲地望着他。母親躺 在椅子裡,兩條腿僵僵地伸直着,並緊在一起,她的眼睛因 為疲憊已經几乎全閉上了;父親和妹妹彼此緊靠地坐著,妹 妹的胳膊還圍在父親的脖子上。

「これでもう向きを変えてもいいだろう」と、グレゴールは考えて、彼の仕事にまた取りかかった。骨が折れるために息がはあはあいうのを抑えることはできなかった。そこで、ときどき休まないではいられなかった。

也許我現在又有氣力轉過身去了吧,格里高爾想,又開 始使勁起來。他不得不時時停下來喘口氣。

ところで、彼を追い立てる者はいなかった。万事は彼自身のやるがままにまかせられた。回転をやり終えると、すぐにまっすぐにはいもどり始めた。自分と自分の部屋とを距てている距離が大きいことにびっくりした。そして、身体が衰弱しているのにどうしてついさっきはこの同じ道を、こんなに遠いとはほとんど気づかないではっていけたのか、理解できなかった。しょっちゅうただ早くはっていくことだけを考えて、家族の者が言葉や叫び声をかけて彼をじゃますることはない、というのには気づかなかった。

誰也沒有催他; 他們完全聽任他自己活動 。一等他調轉了身子, 他馬上就 徑直爬回去。房間和他之間的距離使他驚訝不已,他不明白 自己身體這麼衰弱,剛纔是怎麼不知不覺就爬過來的。他一 心一意地拚命快爬,几乎沒有注意家裡人連一句話或是一下 喊聲都沒有發出,以免妨礙他的前進。

もうドアのところにまで達したときになってやっと、頭を振り返らせてみた。完全に振り返ったのではない。というのは、首がこわばっているのを感じたのだった。ともあれ、自分の背後では何一つ変化が起っていないことを見て取った。ただ妹だけが立ち上がっていた。彼の最後の視線が母親の上をかすめた。母親はもう完全に眠りこけていた。

只是在爬到門口時他 才扭過頭來,也沒有完全扭過來,因為他頸部的肌肉越來越 發僵了,可是也足以看到誰也沒有動,只有妹妹站了起來。 他最後的一瞥是落在母親身上的,她已經完全睡着了。

自分の部屋へ入るやいなや、ドアが大急ぎで閉められ、しっかりととめ金がかけられ、閉鎖された。背後に突然起った大きな物音にグレゴールはひどくびっくりしたので、小さな脚ががくりとした。あんなに急いだのは妹だった。もう立ち上がって待っていて、つぎにさっと飛んできたのだった。グレゴールには妹がやってくる足音は全然聞こえなかった。ドアの鍵を廻しながら、「とうとうこれで!」と、妹は叫んだ。

還不等他完全進入房間,門就給倉促地推上,閂了起來, 還上了鎖。後面突如其來的響聲使他大吃一驚,身子下面那 些細小的腿都嚇得發軟了。這麼急急忙忙的是他的妹妹。她 早已站起身來等着,而且還輕快地往前跳了幾步,格里高爾 甚至都沒有聽見她走近的聲音,她擰了擰鑰匙把門鎖上以後 就對父母親喊道:“總算鎖上了!”

「さて、これで?」と、グレゴールは自分にたずね、暗闇くらやみのなかであたりを見廻した。まもなく、自分がもうまったく動くことができなくなっていることを発見した。それもふしぎには思わなかった。むしろ、自分がこれまで実際にこのかぼそい脚で身体をひきずってこられたことが不自然に思われた。ともかく割合に身体の工合はいいように感じられた。なるほど身体全体に痛みがあったが、それもだんだん弱くなっていき、最後にはすっかり消えるだろう、と思われた。柔かいほこりにすっかり被われている背中の腐ったリンゴと炎症を起こしている部分とは、ほとんど感じられなかった。感動と愛情とをこめて家族のことを考えた。自分が消えてしまわなければならないのだという彼の考えは、おそらく妹の意見よりももっと決定的なものだった。こんなふうに空虚なみちたりたもの思いの状態をつづけていたが、ついに塔の時計が朝の三時を打った。窓の外ではあたりが明るくなり始めたのを彼はまだ感じた。それから、頭が意に反してすっかりがくりと沈んだ。彼の鼻孔びこうからは最後の息がもれて出た。

“現在又該怎麼辦呢?”格里高爾自言自語地說,向四 周圍的黑暗掃了一眼。他很快就發現自己已經完全不能動彈 了。這並沒有使他吃驚,相反,他依靠這些又細又弱的腿爬 了這麼多路,這倒真是不可思議。其它也沒有什麼不舒服的 地方了。的確,他整個身子都覺得痠疼,不過也好像正在減 輕,以後一定會完全不疼的。他背上的爛蘋果和周圍發炎的 地方都蒙上了柔軟的塵土,早就不太難過了。他懷着溫柔和 愛意想著自己的一家人。他消滅自己的決心比妹妹還強烈呢, 只要這件事真能辦得到。他陷在這樣空虛而安謐的沉思中, 一直到鐘樓上打響了半夜三點。從窗外的世界透進來的第一 道光線又一次地喚醒了他的知覺。接着他的頭無力地頽然垂 下,他的鼻孔裡也呼出了最後一絲搖曳不定的氣息。

朝早く手伝い婆さんがやってきたとき――いくらそんなことをやらないでくれと頼んでも、力いっぱいに大急ぎでどのドアもばたんばたんと閉めるので、この女がやってくると、家じゅうの者はもう静かに眠っていることはできなかった――いつものようにちょっとグレゴールの部屋をのぞいたが、はじめは別に異常をみとめなかった。グレゴールはわざとそんなふうに身動きもしないで横たわって、ふてくされて見せているのだ、と手伝い婆さんは思った。彼女はグレゴールがありとあらゆる分別をもっているものと思っていた。たまたま長い箒を手にもっていたので、ドアのところからそれでグレゴールをくすぐろうとした。ところがなんのききめも現われないので、怒ってしまい、グレゴールの身体を少しつついた。彼がなんの抵抗も示さずに寝ているところからずるずると押しやられていったときになってはじめて、女はおかしいな、と思った。まもなく真相を知ると眼を丸くし、思わず口笛のような音を出したが、たいしてそこにとどまってはいず、寝室のドアをさっと開いて、大きな声で暗闇に向って叫んだ。 「ちょっとごらんなさいよ。のびていますよ。ねていますよ。すっかりのびてしまっていますよ!」

清晨,老媽子來了--一半因為力氣大,一半因為性子 急躁,她總把所有的門都弄得乒乒乓乓,也不管別人怎麼經 常求她聲音輕些,別讓整個屋子的人在她一來以後就睡不成 覺--她照例向格里高爾的房間張望一下,也沒發現什麼異 常之處。她以為他故意一動不動地躺着裝模作樣;她對他作 了種種不同的猜測。她手裡正好有一把長柄掃帚,所以就從 門口用它來撥撩格里高爾。這還不起作用,她惱火了,就更 使勁地捅,但是只能把他從地板上推開去,卻沒有遇到任何 抵抗,到了這時她才起了疑竇。很快她就明白了事情的真相, 於是睜大眼睛,吹了一下口哨,她不多逗留,馬上就去拉開 薩姆沙夫婦臥室的門,用足氣力向黑暗中嚷道:“你們快去 瞧,它死了;它躺在那踹腿了。一點氣兒也沒有了!”

ザムザ夫妻はダブル・ベッドの上にまっすぐに身体を起こし、手伝い婆さんのいうことがわかるより前に、まずこの女にびっくりさせられた気持をしずめなければならなかった。だが、事情がのみこめると夫婦はそれぞれ自分の寝ていた側から急いでベッドを下りた。ザムザ氏は毛布を肩にかけ、ザムザ夫人はただ寝巻のままの姿で出てきた。二人はそんな恰好でグレゴールの部屋へ入っていった。そのあいだに、下宿人がやってきて以来グレーテが寝るようになった居間のドアも開けられた。グレーテは全然眠らなかったように、完全な身支度をしていた。彼女の蒼い顔も、眠っていないことを証明しているように思われた。 「死んだの?」と、ザムザ夫人はいって、たずねるように手伝い婆さんを見上げた。とはいっても自分で調べることができるし、また調べなくともわかることだった。 「そうだと思いますね」と、手伝い婆さんはいって、それを証明するためにグレゴールの死骸を箒でかなりの距離押してやった。ザムザ夫人は、箒を押しとめようとするような動作をちょっと見せたが、実際にはそうはしなかった。 「これで」と、ザムザ氏がいった。「神様に感謝できる」 彼は十字をきった。三人の女たちも彼のやるとおり見ならった。

薩姆沙先生和太太從雙人床上坐起身體,獃若木鷄,直 到弄清楚老媽子的消息到底是什麼意思,才慢慢地鎮定下來。 接着他們很快就爬下了床,一個人爬一邊,薩姆沙先生拉過 一條毯子往肩膀上一披,薩姆沙太太光穿著睡衣;他們就這 麼打扮着進入了格里高爾的房間。同時,起坐室的房門也打 開了,自從收了房客以後葛蕾特就睡在這裡;她衣服穿得整 整齊齊,彷彿根本沒有上過床,她那蒼白的臉色更是證明了 這點。“死了嗎?”薩姆沙太太說,懷疑地望着老媽子,其 實她滿可以自己去看個明白的,但是這件事即使不看也是明 擺着的。“當然是死了。”老媽子說,一面用掃帚柄把格里 高爾的屍體遠遠地撥到一邊去,以此證明自己的話沒錯。薩 姆沙太太動了一動,彷彿要阻止她,可是又忍住了。“那麼, ”薩姆沙先生說,“讓我們感謝上帝吧。”他在身上畫了個 十字,那三個女人也照樣做了。

死骸から眼を放さないでいたグレーテがいった。 「ごらんなさいな。なんてやせていたんでしょう。もう長いこと全然食べなかったんですものね。食べものは入れてやったときのままで出てきたんですもの」 事実、グレゴールの身体はまったくぺしゃんこでひからびていて、もう小さな脚では身体がもち上げられなくなり、そのほかの点でも人の注意をそらすようなものがまったくなくなってしまった今になってやっと、そのことがわかるのだった。

葛蕾特的眼睛始終沒離開那 個屍體,她說:“瞧他多瘦呀。他已經有很久什麼也不吃了。 東西放進去,出來還是原封不動。”的確,格里高爾的身體 已經完全乾癟了,現在他的身體再也不由那些腿腳支撐着, 所以可以不受妨礙地看得一清二楚了。

「グレーテ、ちょっとわたしたちの部屋へおいで」と、ザムザ夫人は悲しげな微笑を浮かべていった。グレーテは死骸のほうを振り返らないではいられなかったが、両親につづいて寝室へ入っていった。手伝い婆さんはドアを閉め、窓をすっかり開けた。朝が早いにもかかわらず、すがすがしい空気にはすでにいくらかなま暖かさがまじっていた。もう三月の末だった。

“葛蕾特,到我們房裡來一下。”薩姆沙太太帶著憂傷 的笑容說道,於是葛蕾特回過頭來看看屍體,就跟着父母到 他們的臥室裡去了。老媽子關上門,把窗戶大大地打開。雖 然時間還很早,但新鮮的空氣裡也可以察覺一絲暖意。畢竟 已經是三月底了。

三人の下宿人が自分たちの部屋から出てきて、びっくりしたように自分たちの朝食を探してあたりをきょろきょろ見廻した。朝食の用意は忘れられていた。 「朝食はどこにあるんだ?」と、まんなかの人がぶつぶつ言いながら手伝い婆さんにたずねた。ところが婆さんは口に指をあてて、黙ったまま急いで、グレゴールの部屋へいってみるように、という合図をしてみせた。三人はいわれたとおりに部屋へいき、いくらかくたびれた上衣のポケットに両手を突っこんだまま、今ではもう明るくなった部屋のなかでグレゴールの死骸のまわりに立った。

三個房客走出他們的房間,看到早餐還沒有擺出來覺得 很驚訝;人家把他們忘了。“我們的早飯呢?”當中的那個 房客惱怒地對老媽子說。可是她把手指放在嘴唇上,一言不 發很快地作了個手勢,叫他們上格里高爾的房間去看看。他 們照着做了,雙手插在不太體面的上衣的口袋裏,圍住格里 高爾的屍體站着,這時房間裡已經在亮了。

そのとき寝室のドアが開いて、制服姿のザムザ氏が現われ、一方の腕で妻を抱き、もう一方の腕で娘を抱いていた。みんな少し泣いたあとだった。グレーテはときどき顔を父親の腕に押しつけた。

臥室的門打開了。薩姆沙先生穿著制服走出來,一隻手 攙着太太,另一隻手攙着女兒。他們看上去有點像哭過似的, 葛蕾特時時把她的臉偎在父親的懷裡。

「すぐ私の家を出ていっていただきましょう!」と、ザムザ氏はいって、二人の女を身体から離さないでドアを指さした。 「それはどういう意味なんです?」と、まんなかの人は少し驚きながらいって、やさしそうな微笑をもらした。ほかの二人は両手を背中に廻して、たえずこすっている。まるで自分たちに有利な結果に終わるにきまっている大きな争いをうれしがって待ちかまえているようだった。 「今申しているとおりの意味です」と、ザムザ氏は答え、二人の女と一直線に並んで下宿人たちのほうへ近づいていった。例の人ははじめのうちはじっと立ったまま、事柄を頭のなかでまとめて新しく整理しようとするかのように、床を見つめていた。 「それでは出ていきましょう」と、いったが、ザムザ氏を見上げた。まるで突然襲われたへりくだった気持でこの決心にさえ新しい許可を求めているかのようだった。ザムザ氏は大きな眼をしてただ何度かうなずいて見せるだけだった。 それからその人はほんとうにすぐ大股で玄関の間へと歩いていった。二人の友人はしばらく両手の動きをすっかりとめたまま聞き耳を立てていたが、例の人のあとを追って飛んでいった。まるでザムザ氏が自分たちより前に玄関の間に入って、自分たちの指導者である例の人との連絡をじゃまするかもしれないと不安に思っているようであった。玄関の間で三人はそろって衣裳かけから帽子を取り、ステッキ立てからステッキを抜き出し、無言のままお辞儀をして、住居を出ていった。すぐわかったがまったくいわれのない不信の念を抱きながら、ザムザ氏は二人の女をつれて玄関口のたたきまで出ていった。そして、三人がゆっくりとではあるが、しかししっかりとした足取りで長い階段を降りていき、一階ごとに階段部の一定の曲り角へくると姿が消え、そしてまたすぐに現われてくるのを、手すりにもたれてながめていた。下へ降りていくにつれて、それだけザムザ家の関心は薄らいでいった。この三人に向って、そしてつぎには三人の頭上高く一人の肉屋の小僧が頭の上に荷をのせて誇らしげな態度でのぼってきたとき、ザムザ氏は女たちをつれて手すりから離れ、まるで気が軽くなったような様子で自分たちの住居へもどっていった。

“馬上離開我的屋子!”薩姆沙先生說,一面指着門口, 卻沒有放開兩邊的婦女。“您這是什麼意思?”當中的房客 說,往後退了一步,臉上掛着諂媚的笑容。另外那兩個把手 放在背後,不斷地搓着,彷彿在愉快地期待着一場必操勝券 的惡狠狠的毆鬥。“我的意思剛纔已經說得明白了。”薩姆 沙先生答道,同時輓着兩個婦女筆直地向房客走去。那個房 客起先靜靜地堅守着自己的崗位,低了頭望着地板,好像他 腦子裡正在產生一種新的思想體系。“那麼咱們就一定走。” 他終於說道,同時抬起頭來看看薩姆沙先生,彷彿他既然這 麼謙卑,對方也應對自己的決定作出新的考慮才是。但是薩 姆沙先生僅僅睜大眼睛很快地點點頭。這樣一來,那個房客 真的跨着大步走到門廳裡去了,好幾分鐘以來,那兩個朋友 就一直地旁邊聽著,也不再磨拳擦掌,這時就趕緊跟着他走 出去,彷彿害怕薩姆沙先生會趕在他們前面進入門廳,把他 們和他們的領袖截斷似的。在門廳裡他們三人從衣鉤上拿起 帽子,從傘架上拿起手杖,默不作聲地鞠了個躬,就離開了 這套房間。薩姆沙先生和兩個女人因為不相信--但這種懷 疑馬上就證明是多餘的--便跟着他們走到樓梯口,靠在欄 桿上瞧著這三個人慢慢地然而確實地走下長長的樓梯,每一 層樓梯一拐彎他們就消失了,但是過了一會兒又出現了;他 們越走越遠,薩姆沙一家人對他們的興趣也越來越小,當一 個頭上頂着一盤東西的得意洋洋的肉鋪小伙計在樓梯上碰到 他們又走過他們身旁以後,薩姆沙先生和兩個女人立刻離開 樓梯口,回進自己的家,彷彿卸掉了一個負擔似的。

彼らは今日という日は休息と散歩とに使おうと決心した。こういうふうに仕事を中断するには十分な理由があったばかりでなく、またそうすることがどうしても必要だった。そこでテーブルに坐って三通の欠勤届を書いた。ザムザ氏は銀行の重役宛に、ザムザ夫人は内職の注文をしてくれる人宛に、そしてグレーテは店主宛に書いた。書いているあいだに手伝い婆さんが入ってきた。もう帰ると言いにきたのだった。というのは、朝の仕事は終っていた。届を書いていた三人ははじめはただうなずいてみせるだけで眼を上げなかったが、手伝い婆さんがまだその場を離れようとしないので、やっと怒ったように見上げた。 「何か用かね?」と、ザムザ氏がたずねた。手伝い婆さんは微笑しながらドアのところに立っていたが、家族の者たちに大きな幸福について知らせてやることがあるのだが、徹底的にたずねてくれなければ知らせてはやらない、といわんばかりであった。帽子の上にほとんどまっすぐに立っている小さな駝鳥だちょうの羽根飾りは、彼女が勤めるようになってからザムザ氏が腹を立てていたものだが、それが緩やかに四方へゆれている。 「で、いったいどんな用なの?」と、ザムザ夫人がたずねた。手伝い婆さんはそれでもこの夫人をいちばん尊敬していた。 「はい」と、手伝い婆さんは答えたが、親しげな笑いのためにすぐには話せないでいる。「隣りのものを取り片づけることについては、心配する必要はありません。もう片づいています」

ザムザ夫人とグレーテとはまた書きつづけようとするかのように手紙にかがみこんだ。ザムザ氏は、手伝い婆さんがいっさいをくわしく説明し始めようとしているのに気づいて、手をのばして断固として拒絶するということを示した。女は話すことが許されなかったので、自分がひどく急がなければならないことを思い出し、侮辱されたように感じたらしく「さよなら、みなさん」と叫ぶと、乱暴に向きなおって、ひどい音を立ててドアを閉め、住居を出ていった。

他們決定這一天完全用來休息和閒逛;他們幹活幹得這 麼辛苦,本來就應該有些調劑,再說他們現在也完全有這樣 的需要。於是他們在桌子旁邊坐了下來,寫三封請假信,薩 姆沙先生寫給銀行的管理處,薩姆沙太太給她的東家,葛蕾 特給她公司的老闆。他們正寫到一半,老媽子走進來說她要 走了,因為早上的活兒都幹完了。起先他們只是點點頭,並 沒有抬起眼睛,可是她老在旁邊轉來轉去,於是他們不耐煩 地瞅起她來了。“怎麼啦?”薩姆沙先生說。老媽子站在門 口笑個不住,彷彿有什麼好消息要告訴他們,但是人家不尋 根究底地問,她就一個字也不說。她帽子上那根筆直豎著的 小小的鴕鳥毛,此刻居然輕浮地四面搖擺着,自從僱了她, 薩姆沙先生看見這根羽毛就心煩。“那麼,到底是怎麼回事? ”薩姆沙太太問了,只有她在老媽子的眼裡還有幾分威望。 “哦,”老媽子說,簡直樂不可支,都沒法把話順順噹噹地 說下去,“這麼回事,你們不必操心怎麼樣弄走隔壁房間裡 的東西了。我已收拾好了。”薩姆沙太太和葛蕾特重新低下 頭去,彷彿是在專心地寫信;薩姆沙先生看到她一心想一五 一十地說個明白,就果斷地舉起一隻手阻住了她。既然不讓 說,老媽子就想自己也忙得緊呢,她滿肚子不高興地嚷道: “回頭見,東家。”急急地轉身就走,臨走又把一扇扇的門 弄得乒乒乓乓直響。

「夕方、あの女にひまをやろう」と、ザムザ氏はいったが、妻からも娘からも返事をもらわなかった。というのは、手伝い婆さんがこの二人のやっと得たばかりの落ちつきをまたかき乱してしまったらしかった。二人は立ち上がって、窓のところへいき、抱き合って立っていた。ザムザ氏は彼の椅子に腰かけたまま二人のほうを振り返って、しばらくじっと二人を見ていた。それから叫んだ。 「さあ、こっちへこいよ。もう古いことは捨て去るのだ。そして、少しはおれのことも心配してくれよ」 すぐ二人の女は彼のいうことを聞き、彼のところへもどって、彼を愛撫あいぶし、急いで欠勤届を書いた。

“今天晚上就告訴她以後不用來了。”薩姆沙先生說, 可是妻子和女兒都沒有理他,因為那個老媽子似乎重新驅走 了她們剛剛獲得的安寧。她們站起身來,走到窗戶前,站在 那兒,緊緊地抱在一起。薩姆沙先生坐在椅子裡轉過身來瞧 着她們,靜靜地把她們觀察了好一會兒。接着他嚷道:“來 吧,喂,讓過去的都過去吧,你們也想想我好不好。”兩個 女人馬上答應了,她們趕緊走到他跟前,安慰他,而且很快 就寫完了信。

それから三人はそろって住居を出た。もう何カ月もなかったことだ。それから電車で郊外へ出た。彼ら三人しか客が乗っていない電車には、暖かい陽がふり注いでいた。三人は座席にゆっくりともたれながら、未来の見込みをあれこれと相談し合った。そして、これから先のこともよく考えてみるとけっして悪くはないということがわかった。というのは、三人の仕事は、ほんとうはそれらについておたがいにたずね合ったことは全然なかったのだが、まったく恵まれたものであり、ことにこれからあと大いに有望なものだった。状態をさしあたりもっとも大幅に改善することは、むろん住居を変えることによってできるにちがいなかった。彼らは、グレゴールが探し出した現在の住居よりももっと狭くて家賃の安い、しかしもっといい場所にある、そしてもっと実用的な住居をもとうと思った。こんな話をしているあいだに、ザムザ夫妻はだんだんと元気になっていく娘をながめながら、頬の色も蒼あおざめたほどのあらゆる心労にもかかわらず、彼女が最近ではめっきりと美しくふくよかな娘になっていた、ということにほとんど同時に気づいたのだった。いよいよ無口になりながら、そしてほとんど無意識のうちに視線でたがいに相手の気持をわかり合いながら、りっぱなおむこさんを彼女のために探してやることを考えていた。目的地の停留場で娘がまっさきに立ち上がって、その若々しい身体をぐっとのばしたとき、老夫妻にはそれが自分たちの新しい夢と善意とを裏書きするもののように思われた。

於是他們三個一起離開公寓,已有好幾個月沒有這樣的 情形了,他們乘電車出城到郊外去。車廂裡充滿溫暖的陽光, 只有他們這幾個乘客。他們舒服地靠在椅背上談起了將來的 前途,仔細一研究,前途也並不太壞,因為他們過去從未真 正談過彼此的工作,現在一看,工作都滿不錯,而且還很有 發展前途。目前最能改變他們情況的當然是搬一個家,他們 想找一所小一些、便宜一些、地址更適中也更易於收拾的公 寓,要比格里高爾選的目前這所更加實用。正當他們這樣聊 着,薩姆沙先生和太太在逐漸注意到女兒的心情越來越快活 以後,老兩口几乎同時突然發現,雖然最近女兒經歷了那麼 多的憂患,臉色蒼白,但是她已經成長為一個身材豐滿的美 麗的少女了。他們變得沉默起來,而且不自然地交換了個互 相會意的眼光,他們心裡打定主意,快該給她找個好女婿了。 彷彿要證實他們新的夢想和美好的打算似的,在旅途終結時, 他們的女兒第一個跳起來,舒展了幾下她那充滿青春活力的 身體。

Text from aozora.gr.jp
Text from zys.org